2008

08.09

ちりちり 日差し



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夏の暑い日は

虚ろ

ぽっかりと開いた穴

白く霞んだ世界

滴り落ちる汗

張りつくような苦痛

取り残されたような

・・・止まった時間




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    2008

08.05

白黒



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絶望は 階段のように 少しずつ深まる
絶壁を落ちては停滞する
停滞しては また落ちる

諦めは静かに侵食し 
痛みは感覚を麻痺させていく
横ばいの移動は 
自分が深く沈んで行きつつある事を忘れさせる

一段

そしてもう一段

少しずつ狂って行く自分をみつめる
もう一つの目が映す世界は
白黒で色が無い

底へ辿り着くのは いつの日か
いや その時は もう
何も見えてないだろうけれど




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    2008

07.28

夜の散歩




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星が無い夜だったので
灯りを持って出かけました
ひたひたひたと
足音だけが聞こえる道のり

夜はねっとりとまるで溶けかかったゼリーのように
足元に吹き寄せる生ぬるい風に
不気味に揺れる 振動する 
そこかしこに溜まっている

ゆっくりと選んで歩く
踏み石は時々悲鳴をあげる

その悲鳴は自分のもののようで
いとおしく懐かしい

今は しっかり口を閉じて
心も閉じておきます
秘密は秘密のままに
謎は謎のままに
私の痛みは私の中に

そしてあなたの痛みは 私の中に

刃物を研いでおきましょう

この道のりの向こうにみつけるかもしれない
手枷足枷につながれた人を
切り裂くための銀の刃物を





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    2008

07.25

A・M・I・X・Y



A・アイシテル
そう言ってくちづけた
抱き締めて もどかしく
服を引き裂いて押し倒す
悲鳴をあげて 喘ぎながら
あなたの喉を切り裂きたい

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M・みつめあう 覗きこむ その瞳の中に
空っぽの自分 空っぽのあなた
重ね合い 傷つけあう

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I・いつも 穏やかさに安住できず
常に 痛めつけないといられない
そして 白く張りつめた皮膚を 深く切り裂いて
なぜか 赤い血の流れにとまどう

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X・謎は謎を呼び
解けない疑問は果てなく続く
確かなのは ずた袋のように
つるされた肉の塊だけ

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Y・やめて 
人間なんて大嫌い
知ってるから わざわざ教えてくれなくてもいい
嘘つきなのは私も あなたも
愛してるなんて だれも 信じてない

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嘘つきの唇をとり戻した
その唇であなたにくちづける
虚ろな心は くるくると回転し
嘘は嘘でなくなり 真も真でなくなる

ああ そうね ほんとうなんて みたことありません




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    2008

07.21

沈む、潜る、這いずる


さて、準備ができました
畳んで 結んで 動けない
待ち構えているその身体
切り刻んで差し上げましょう

何を望んでいるの
何で望んでいるの
あなたの持つ闇へ
切りつけた傷から漏れる月の光

自分を好きになってはいけない
誰も好きになってはいけない

ただ黙ってうずくまる
禁じられた言葉を
紡がないように

心の中で悲鳴をあげようと



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    2008

06.04


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照明を全部落とした部屋
机の上だけついた明かりの中へ
長い手が伸ばされて
車の鍵を投げだす

曲げられた細い指
節くれだった長い指
ガチャリ・・・っと、音を立てて
少し滑った車のカギは
明かりの中で止まって動かなくなる

止まった時間
止まった想い

こごった影
こごった愛

レコードについた傷
リピートされる
繰り返し
繰り返し
繰り返し

繋がれた私は 暗がりから覗き見る
鎖の距離だけ 近づいてみても
けして届かない 触れはしない
ただ痛むだけ 胸が痛むだけ
この痛みを消して頂戴
強い嵐のような 苦痛で

繰り返し
繰り返し
繰り返し
壊れるまで
感じなくなるまで


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    2008

05.14


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足の甲に ハサミが ささった

ドンって、音がして辺りが真っ白になった
繋がっていた日常が途切れる
昨日の次は今日
今日の次は明日
ずっと、続いて行くはずなのに 何も見えなくなった

周りの世界が遠ざかって行く・・・・
あなたの姿が遠ざかって行く・・・・

見えるのは鋏の鈍い光だけ
足の甲で震える銀色の光だけ

感じなかった痛みが
ゆっくりとはいのぼり私を侵食する
お腹を 胸を 首を 頭を・・・・

何も考えられない
すべてがからっぽ
あなたを好きだった事も
手で握れるほどに確かだった愛なのに
今は・・・・
揺するとカラカラと外れたネジの音がする

鋏を抜いて訪ねて行こう
私の愛した人の所へ
血を混ぜ合わせて
陶酔に浸りたい
酔いしれてすべてを捨て去りたい

でも まず その前に

足の甲から「鋏」を抜かないと

ああ、この悲鳴を聞かないで
耳をふさいでて
決して 決して・・・・
私の声を聞かないで


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    2008

05.11

アリス


Hellfire Society - "Mad About You" (music video)





うさぎを追いかけて穴に落ちた
時間が巻き戻されて世界がぐんにゃりと曲がった

どうしたの どこからきたの
どこへいってたの
なんでいなくなったの

いなくなってないよ
ここにいるよ
ずっといたよ

うそうそうそつきうそばっかり
死んじゃったのに
死んじゃったのに
おいていったのに
もういないのに

ううん 生きてても同じでしょ
ほんとの事教えたとたんに
ぴょん、と跳ねて
ひゅううううっと駈けて
いなくなる
届かなくなる
見つからなくなる
喋らなくなる
視線を合わせなくなる
捕まらなくなる

おいてけぼり
おいてけぼり
おいてけぼり

もう 起こさないで
ずっと眠っていたいの
穴の中でまるくなって
小さくなって
春と夏と秋が通り過ぎて
心が凍えてしまう季節がくるまで





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    2008

02.07

21の冬


 僕が彼女に出会ったのは大学三年の冬の事だった。大学に進学してすぐに父が急逝したために、僕は夜の時間のほとんどを、飲み屋のバイトをして過ごしていた。水商売があっていたのか、いつの間にか、実入りのいい店へ移動し続けているうちに、ハプニングバーの黒服をするようになっていた。夜の世界は、僕にとっては住み心地のいい青いライトで照らされた水槽の中で、ただ、たゆたっているだけで生きていける。
 生きるためと学ぶために、バイトをしてるのに、目的以上の金が入ってくるようになり、一年もたたないうちに、休みの日には、ほかの店でちょっと遊んだりしてしまうほどになった。同級生とは一線を隔した時間が、心地よく、21年間被って過ごした、昼間のいい子の顔の方が、無理をしているような気になっていた。まだ、まだ、物知らずのひよっ子にすぎなかったのに、錯覚とは怖いものだ。そして、僕は、彼女に会った。






 休みの日に通う、別のパプバーで、出会った彼女は、そんな場所にそぐわない、清楚なスーツ姿だった。年は30歳後半だろうか。どうして、こんな場所に紛れ込んでしまったのか。あまりにも目立っているので、一人で来ている男性が次々と彼女の横へ座っては声をかけて行く。おそらくは、カップルで入れる部屋に一緒に移動しようと誘っているのだろうが、彼女は堅い頬を緩めようとはせず首を振り続けた。
 一通りの男性が誘ってしまうと、彼女はポツンと取り残された。それから、どうするつもりなんだろう・・・と、一番壁際のスツールの上で、彼女を見つめていた僕の方へくるりと身体を回した。ぶしつけな視線に気が付いていたのだろう。斜めになって壁に寄り掛かっている僕をまじまじと上から下まで念入りに眺めまわした。






 ずっと、見ていたんだから、見られても文句の言いようがない。お互いの視線が絡み合って、みつめあう。彼女から見れば、今まで彼女を誘おうとしてた男たちと違って、僕なんか子供も同然だろう。だが、しばらく見つめあっただけで、一言も交わさないうちに、彼女の傍に行くべきなのだと分かった。
 別に、彼女が視線や態度で誘った訳でも無く、そばへ来ていいと示したわけでもなかったのに、当たり前のように立ち上がり、当たり前のようにその隣に座った。だから、どうという事もなく。ただ、並んで座って飲んでいるだけだったんだけど・・・。






 その日のうちに、ホテルへ行った。

 彼女は、移動する道の途中で僕に「縛られたい」と、打ち明けた。後から思うと彼女はいったい僕をなんだと思っていたんだろう、と、すごく不思議になる。僕は背こそ、まあまあ高かったが、取り立てて人目を引くような容姿って訳ではない。つまり、どこから見てもただの20歳の男だったのだ。
 そんな男をひっかけて、いきなり「縛られたい」と要求したって、「縛れる」わけがあるはずない。あるはずないんだけど、偶然にも、僕はそれが可能な男だった。去年から勤め始めた自分の職場で、ハプニングの手伝いをするために、マスターがママを使って僕にある程度の縛りやプレイの手ほどきをしてくれていた。

 彼女は、昨年の秋に夫を亡くした未亡人だった。子供はいない。そして、彼女は、自分を縛ってくれる男を探しに決心して夜の街へ出てきた。それも、出てきたばかりの一日目。そして、拾った僕が一緒にホテルへ行く初めての相手。あまりに出来すぎだろう、それは。絶対、嘘に違いない。そう、思いながらも、やっぱり、嘘ではないだろうと云うのが、短いながらも夜の街で生きてきた僕の勘だった。





 一番近くにあるSMが出来るホテルへ連れて行った。言われるがままに縄をかけてやり、ベッドへ転がすと、彼女はじっと黙っておとなしく横たわっている。その横に座ったまま僕は、彼女を見つめた。目をつぶっておとなしくしている彼女の腕は後ろにくくしあげられている。その指が時々もぞもぞと動く。だんだんと色が変わってきて、だんだんと痺れてきて、だんだんとつらくなる。
 だが、彼女は動かなかった。動くのは後ろで縛られた掌の先だけ。そこだけがまるで生きているかのように、そこだけがまるで彼女自身だというように白くて細い美しい指は、彼女の苦痛を表してひらひらと動く。何かをつかもうと、ひらめき、抑え込んだ苦痛を発散しようとうごめく。





 大学を卒業するまでの一年間。僕は彼女と遊んだ。十日に一度、そのホテルへ行き、彼女を縛り、好き勝手した。主人とか奴隷とか、愛とか、恋人とか、全く無関係の無秩序な関係。セックスどころか、キスもしなかった。言葉すらほとんど交わさなかった。入口で待っている彼女を部屋に連れ込んで、服を脱がせては縛る。彼女はほとんど抵抗せず、かといって、従う訳でもなく、ただ淡々と身体を差し出してきた。
 縄が体に回り、締め上げ、身動きがならなくなってくると、彼女の身体はピンク色に色づいてくる。まるで、人形のように無表情にじっと固まっていた身体がほどけてくる。あえぎ、息づき、ほころび、膨らみ、花開くその様を、僕はいつもじっと見つめた。
 足を開かせる時だけ、彼女はいつもあらがった。

「恥ずかしい。」

 顔も頸筋も身体もまっかにして、厭がる。そこを膝を使って無理やり押し開き縄をかけて、もっとあからさまにむきだしにする。すっかり濡れそぼった彼女の花が、息づいてゆっくりと開いていく様を鑑賞し、それから、軽く触れてやる。手が近づいてくる気配に、彼女は息を呑み、身体を硬直させる。そして、その瞬間を待つ。僕の指先が触れ、痙攣と共に自分が達する瞬間を・・・。





 あなたが卒業したら、もう、こない。最初からそう云う約束だったから、別れらしい別れもなかった。自分の中でこれが最後だなと想い。彼女も何も言わなかった。ただ、最後に縄を解いていく時に彼女の瞳から涙が一粒こぼれた。僕がいなくなることを惜しんだ涙じゃなかった。相手もそれを知っていたし、僕も知っていた。逢瀬が三回目になった時に、彼女のために買った縄を揃えて巻くと、軽く結んで僕は横たわる彼女の傍に並べた。
 
 冬になるとその事を思い出す。僕は、あの後、新しい縄を何度も買った。

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    2007

12.19

エンドレス



まず小指
それから薬指
ぞして中指
もったいぶって人差し指 
最後は念入りに親指

茂った葉が落ちた後に枝を払った木のように
まあるくなったその掌を
押さえつけて
包丁を押し付ける

ぶつっ・・・と皮膚が裂け
ぐにゅううううっと肉が軋み
ごりごりと骨が鳴る

指のように簡単には終わらない

ごりごりごりごり・・・
鉄さびの臭いの中
世界が暗転し
足元の地面がたわむ
身体が床に叩きつけられる時
暗い穴の中へ
意識は速度をあげて
収縮しながら引きずり込まれる

落とした包丁がどんっと鈍い音を立てて
足の甲に突き刺さると
悲鳴の中に
ようやく夢は終わる

しかし 手首はまだついている

だから

また 機会のある時に
切り落とさねばならない





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    2007

12.17

御伽噺・26



髪の長いお姫様 美しい乙女を見つけた
微笑みと白い手で城の奥に誘い込む
石と氷と鎖で出来た
寒い寒い城の奥へ

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じゃらじゃらと鎖を鳴らして
鞭の響きを聞くがよい
叫び声と泣き声とかすかに聞える呻き声・・・
間にはいる合の手の懇願さえも心地よく

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望んで城に迷い込み
私の手を掴んだ以上は
決してその手を離しはしない
私の足に取りすがり
泣いて許しを請うがよい

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寒さに凍えるその肌に
熱い蝋火を滴らせ
甘いうめきをしぼりとり
くねる身体をいとおしむ

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骨に喰いこむ手枷足枷
肉を削ぎ 骨を鳴らす
その悲鳴を紡ぎだす
とろけるような唇にくちづける

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愛してるよ 私の乙女
愛してるよ 未来永劫
命が尽きるまで 共に
地獄をさまよい続けよう 共に


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    2007

11.28

ひみつ






鍵を掛けられる小箱に詰めて
決して、決して、開けられないように
閉じ込める

闇夜の道を辿って
森に埋めに行こう
深く深く穴を掘って
埋め戻した後を落ち葉で隠す・・・

埋めた事を忘れてしまおう
持っていた事も
全部全部無かった事に

けれど

秘密は箱の中で増殖する
行き場がなくなってお互いに共食いする
己の足を食べているように
ぶつぶつと泡を吹いて
くねる・・・

森の奥で聞こえないはずの悲鳴が
胸に響く
喰い散らす
ぽっかりと空いた空洞を

あの小箱を取り出す日を
手繰り寄せるために
私の手は血だらけになる 



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    2007

10.21

18の秋


 18歳という歳は、もう大人だと思い込みたい自負と、経験の無さを知られたくないと思う薄っぺらなプライドの狭間に過ぎていったと思う。一学年下のクラブの後輩の、憧れに縁取られた何の疑いも無い笑顔を、泣かせてみたいと思わずにはいられない欲望。それを、自然に表現するほどは、経験もなく、度胸も無かった。それでも、彼女のすらりとした立ち姿に欲望を振り向けてみたい・・・。そんな思いは抑えがたいほどに僕を支配して、居ても経ってもいられないような気持ちにさせるのだった。
 ちょっとした、冷たいそぶりや、残酷な言葉に涙を浮かべながらも、どこかもじもじとした様子で擦り寄ってくる彼女の瞳の中に、明らかな被虐の願望を見たのは、僕の思い込みだけじゃなかったはずだ。


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 どういう話からそんな事になったのか、もう記憶に無い。
「見せて欲しい。」
 その言葉に、真っ赤に染めた頬をためらいとともにうなずいた彼女も、いつ人が通るか分からないような、通りの壁に、僕が縄を掛けて彼女をくくりつけようとすると、顔色を変えて抵抗したものだった。
 少女のもがく身体を壁に押し付けて、無理やり縄を結びつける時、興奮しきった僕の手はかすかに震えていた。その硬いこわばりを彼女の尻にきつく押し付けると、まだ、一度も男に許した事のないという硬い蕾のような彼女は、かたかたと歯を鳴らしながらもじっと、膝をきつく閉じ合わせてこらえていた。






 スカートを捲くると、真っ白な綿ローンのかすかに透けた布に覆われた身体が現れる。恥ずかしさと恐怖のない交ぜになった感情に、身もだえしてみせる彼女は、まだ、一度も知らない暗い淵を辿っていくような悪い遊びへの期待と、それを上回る屈辱にはらはらと涙を零して見せたものだった。
 そんな物に、ほだされるほどの純な気持ちは、大人ぶっている子供の男にとっては、邪魔なだけだったのは言うまでもないだろう。むき出しになった下半身の、少女の尻をぴしゃりと叩くと、僕は1メーターほども下がって、腕を組んで彼女がくねらせる尻を見つめた。






「さあ、早くやって見せろよ。」
 悪ぶって、どすを聞かせた声に、彼女の肩がびくりと揺れた。いつ、誰が通るかわからない場所で、立ったままの排尿を強いられている少女は、縄でくくられた拳を握り締め、何とか決心をつけようと、身を揺すっていた。さっき、たんと水を飲ませてきたとは行っても、まだ、差し迫ってるわけでもない尿意に応えて、排尿するのは決して簡単な事じゃない。
「早くしないと人が来るぞ。」
「あ・・・。」
 うろたえ、思い乱れた様子で、ざらざらとした壁に頬を擦り付けながら、彼女は足を何度も踏み代えた。好きな男に羞恥をさらす事への躊躇いと、誰に見られるかもわからない恐怖が彼女を追い詰める。
 熱い吐息を拭き零しながら、彼女は、最初の会談を飛び降りた。


 そんな彼女に再会したのは、それから10年も経っていただろうか。固い蕾だった少女は、他の男の手によって、美しく咲きその絢爛の様を周囲に誇っていた。
 一言、二言。脅しただけだった。
 真っ青になり、震えながら、哀願しながらも、きらきらと被虐に濡れる彼女の瞳は、彼女がこの十年で変わりえなかった事を、はっきりと僕に教えた。






 蜘蛛が獲物を捕らえるように彼女を捕まえる?いや、そうではない。美しく蜜を滴らせ、蜂を誘う、咲き誇る女。惹きつけられ、囚われるのは僕の方だった。縄を手繰り寄せ絹紐を引き抜く。手繰り寄せる身体は、かってとは違いたよたよと熟れきっていた。
 青いレモンのようだった、体臭は、すっかり先ほころんだ多弁の花のように、僕の心を掴んで引きずり回すのに充分だった。






 逆らい、惑い、うなだれては、訴える。泣いては、俯き、そして抵抗する。愁嘆場を繰り広げながらも、徐々に、徐々に、男を引き寄せる美しい花。そらしたうなじに唇をなすりつけ、息も出来ぬほどに抱きしめてみる。縄をまといつけた身体がくなくなと腕の中で泳いだ。
 痛みに喘ぐ、その唇がぽっかりと闇に咲きほころぶ。あまりの艶々しいその美しさに、僕は、10年の失った月日を惜しまずにはいられない。






「やめて。許して。」
 婀娜な流し目のうちに、女が誘う。
「いやいや。お願い。誰にも・・言わないで。」
 その言葉は、私の耳には「晒して」と、聞こえる。あの秋の日にしとどに雫を垂らしながら、濡れた下着をこれ見よがしに突き出しながら。許して許してと泣いた少女。今や、恐ろしく美しく妖しい流し目で僕を誘ってくる・・・・。






 ・・・忘れられなかったんだろう?あの衝撃が、あの羞恥が、あの縛めの味が・・・・。もちろん、もう一度、味あわせてあげる。欲しいものは、何でもあげよう。明るい光の、日差しの中で、黒い下着に身を飾る。もう、君はあの頃の少女じゃない・・・。
「いやいや・・・お願い。」





 言葉に出さずとも、態度で示さずとも・・・君が求めているものは、分かっている。縄をしごいて胸を高鳴らせながら、繋いだ身体を撫で回し。身体を隠す布を引き裂いて・・・・。






 そうして、僕は一気に10年の時を越える。青年期の終わりに、僕を夢中にさせた美しい少女の、幻を追い、夢にたゆたう。君の満足をまかなって、思いっきり悲鳴をほとばしらせるためなら、僕のすべてを傾けよう。運命も、愛も・・・・。






君の鎖に繋ごう・・・・。

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    2007

10.16

嘆き





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三日月の夜に森へ行くと
待っている女がいる
肉厚のナイフを研いで ぎらぎらと光らせながら
あなたの指を切り落とそうと

ぶつぶつぶつ・・・・って
落とされていく間 悲鳴をあげてはだめよ
じっとじっと我慢して
こらえていてね

覗き込む彼女の目が嬉しそうに笑う
それが見たかったんでしょ
彼女が好きなんでしょ

ぽろぽろと零れ落ちた指は
まるで白いイモムシのよう
鉄板の上で念入りに炒めて
猫にあげたいくらい

どうして 泣くの?
失ったものが そんなに大事だった?
お手紙を書くために
恋文を書くために




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    2007

10.15

だって痛いんだもん



叫び語をあげて
身体をゆらして
揺り籠のように
赤い木の実のように

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ん・ん・ん・・・
私を惹きつける
魅せつける
縛り付ける

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あなたの 悲鳴

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おとぎの国で あなたに出会った
私の夢の中の国
石積みのとんがり屋根と白い壁の中
光ささぬ 暗いひんやりとした部屋で

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覚めないで ずっと
私の腕の中にいて

覚めないで ずっと
私はあなたの 主人
それは 囚われ人の もうひとつの名


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    2007

10.10

滅びの淵へ



寄りかからせてくれた広い背中
抱きしめてくれた暖かい腕
やさしいくちづけ
落ち着いた声

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そんなあなたを泣かせてみたい

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分かってるの 私よりも大きな心
知っているの 私よりも豊かな気持ち
感じるの 深い愛情

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だから 受け止めて
この私を

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迷路を辿って 迷い込んだ深い森
振り返れば そこにいてくれるのが
分かっていたのに
待っていてくれるのが 分かっていたのに
我慢できなかった

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一緒に来て 一緒に来て 一緒に来て

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あなたを壊してしまった?

私は壊れてしまった?

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「大丈夫」
そう囁いてくれるあなただから
なおさら

苦しくてならない・・・



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    2007

09.14

抵抗



嫌がってるふりが上手いのね
ほんとに抵抗してるみたい

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振り払って もがいて
押しのけて 髪振り乱して




その気になっちゃうの
どきどきしちゃうの
熱くなっちゃうの




悲鳴が聞きたいわ
あたなのほんとの声
演技じゃなくって
思わず漏れた ほんとの声が
空を切り裂いて 夜空に響く




でも、わかってる
こんなに振り回したその後に
男を夢中にさせたその後に




上目遣いでくすりと笑う
あなたは、それが好きなんだって


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    2007

08.09

18の夏


 18歳の夏、僕は忘れられない女にあった。その夏、形ばかりの受験勉強を理由に軽井沢へ避暑に出かけていた僕は、自分の部屋から隣の別荘の窓が見えることに気がついた。去年までは隣家との間をさえぎっていた大きな木が、枯れてしまって根元のところからばっさりと切られていたのだ。そして、その隣の別荘には、初めて見る美しい女性がやはり同じように都会の酷暑を避けてひっそりと過ごしていたのだった。


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 彼女に魅せられた僕は、家にあった双眼鏡を探し出して、別荘のありとあらゆる場所から、彼女の見える窓を覗いた。別荘に僕の食事のためにやってくる通いの家政婦が帰ってしまうと、大きな家は僕一人だけになる。家中の電気を消して見つからないように、密やかに。僕は窓から窓へと移動し、わずかでも彼女の姿が見える場所を探した。
 時には、我慢がならずにそっと隣家へ忍び寄り、あらぬ場所にいる彼女の姿を追い求めることもあった。恥知らずの所業だとは分かっていても、恋の熱に浮かされたようになった僕はやめることが出来ず、夜毎に悶々と眠れぬ時間を明かりの消えた窓の中の彼女の姿態を想像して過ごした。






 いつからだったのだろう。彼女がそんな僕の存在に気がついたのは。いつの間にか、彼女は窓の傍に寄り、そして見つめている僕に見せ付けるかのように、思いもよらぬ痴態を示し始めた。彼女のいる部屋のカーテンは開け放たれ、明かりが煌々とともされた隣家の窓から窓へと、彼女は移動する。その移動の度に閉められ、次の部屋へ移ると引き開けられるレースのカーテンが、はっきりと意思を示して僕を誘う。






 時折、僕の姿を確認するかのように視線を向けながらも、彼女はそ知らぬ顔で服を脱ぐ。窓に張り付き、高鳴る胸を押さえ、息を潜めて、猫のように闇を移動し、その姿を追い求める僕。震える指で双眼鏡を握り締め、露わにされる白いその肌が、濡れたように光を放つその様を、じっと見つめ続けた。






 僕が見つめ、彼女が見せつける。僕が仕掛けた行為だったのに、いつの間にか彼女が仕掛けた「げえむ」のように、僕は夜毎の覗き見の行為に囚われていた。明らかに、彼女は僕の存在を知っていた。挑発し、誘惑し、明かりに反射するレンズを見やってくる彼女のまなざし。
 誘うように、くねる身体。吐息をつく唇。脱ぎ捨てられる白い下着。僕は窓に張り付き彼女の姿を求める。僕がそこにいて、彼女がそれを挑発する。僕たちは、覗き、覗かれるその関係に没頭した。まったく一言も口をきかず、会ったことも無い男女が、二枚の硝子を隔ててのめり込む淫蕩な「げえむ」。






 ドアを開けて外へ走り出て、彼女の別荘のドアを激しく叩きたい。彼女をかき抱き、思いのたけをぶつけたい。何度もその衝動に捉われながらも、僕がそれをしなかったのは何故なのだったのだろうか。
 お互いに会った事が無い事が、お互いに何をしていると認めないことが、僕たちの危うい関係を、かろうじて支えているのだとなんとはなしに気がついていたからなのだろうか。






 一夜毎に強く、一夜毎に深く、僕たちはお互いの官能を高めていった。僕の視線は、彼女を淫らな遊びに熱中させた。おそらくは、幼い頃から厳しくしつけられ、お供無しには一歩も外に出してもらえないような人生を送ってきたであろう彼女の無言のお遊び。
 僕の妄想は、その彼女の熱い視線に絡めとられ、思い惑う。いつの間にか、彼女がそれ無しではいられなくなり、その首に繋がれたリードを持っているのは僕であるかのように・・・。






 彼女を縛りつけ、痛めつけ、自分だけのモノにしたい。いや、この夜毎の行為は、とうの昔に則を越え、この不義の関係はお互いの胸中を食い荒らしているのではないのか。愛おしいひと。僕だけの手の中で、痴態を晒す、慎ましいはずの女性。羞恥が溢れ零れ落ちる。桃色の吐息が見えるようであり、汗ばむ肌がうごめく様は、妖しい奇形の生き物のようにくねくねと悶え続けた。 その瞬間は、彼女は僕のモノであり、僕は彼女のモノだった。闇の中、夜の中、そうして僕らは「ひとつ」になった。触れ合うことも、確かめ合うことも無く、それでいて心の奥深くまで「ひとつ」に溶け合っていった。






 夏の終わり、高原の人々が地上へ降りて行く日。僕は彼女が定められた遥か年上の男の元に嫁いで行くこと聞いた。


萌ゆる 夏草 紫草の野辺 
流るる水は青き秋 月のかかりし藍は 夜空・・・
なべてゆかしきは春秋 歌に詠めるごとくあはれつのりて
羨ましや 我が心 夜昼君を離れぬ

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    2007

07.04

御伽噺・25


最初にお姫様に秘密を教えたのは
お城の塔に住んでいる尻尾を持った妖精でした

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本当は 知ってはいけなかったのです
本当は 味わってはいけなかったのです

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でも、そんな事どうして分ります?
だって、こんなに楽しい事を
こんなに甘い喜びを
薄暗がりに隠れている 背徳の事実を

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それから お姫様は こっそりと侍女を塔の上に誘っては
彼女をいたぶるようになってしまいまいました

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その悲鳴が
その哀願が
その鎖のなる音が
響く鞭音が
城中に聴こえてるとも知らずに

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ああ だからなのです
お姫様がすまし顔で 
廊下を横切ると
みなが嬉しそうににっこりと笑うのは

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だって お姫様は 本当に
美しい 美しい お姫様だったんですもの


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    2007

06.24

御伽噺・24



昔々 流行っていた
地下牢に悪食な娘たちを飼う
酔狂なお金持ちが多かった

ま、それは私

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世界は私を中心に
お金はすべての代償に
人の心は気まぐれの慰みに


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ああ 宇宙はもちろん私の周りを廻っている

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踊るがいいよ
叫ぶがいい
私のために泣くがいい
絡まり 喘ぎ ひくついて
この世の喜びを食い尽くせ・・・

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私のために
私のお金のために
私の権力のために

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私の得られない
愛と、満ち足りた幸せの代償のために・・・・


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    2007

06.17

18の春

 思い出話をさせていただけますか?わたくしがまだ、駆け出しの縛り絵師の修行をしていた頃に、お世話になったお方の奥様のお話です。それは、それは、美しい方でございました。普段は着物を御召しになっておられ、すれ違う時にそっと会釈をなさるだけ。ほのかに香る着物に焚き染められている香の残り香にうっとりとさせられるようなお方でございました。

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 因果な仕事をしておりましたが、まだまだ、駆け出しですので、頭の中だけで絵に作り上げられるほどの実力はございません。
どなたかにモデルになっていただかねば、首のねじりも腕の位置も決めかねるような状態でありましたので、師匠の仕事場に、張り付いて命じられるままに、髪の準備をしたり、絵の具を混ぜたりする合間に、お仕事のために呼ばれてくる女性をそっと盗み見ては紙に写すような事をしておりました。





 ある日の事でございます。丁度、手配していました女性が、急に具合が悪くなったという連絡があり、師匠は奥様を呼び寄せられて、代わりを務めるように命じられました。もちろん、お二人のご様子からすると、それは初めての事とは見受けられませんでしたが、わたくしが内弟子に入ってからは、ついぞになかったことでございました。
 奥様は、真っ赤になられて、わたくしの方をちらりと見ると、すがるような視線を夫である師匠の方に向けられましたが、師匠はそれを分かった上で代わりをするように命じられている事はあきらかでございました。





 奥様は、溜息を一つつかれ、夫が要求するままに腕を差し出されました。手馴れた縄捌きであっという間に奥様は後ろ手にくくりあげられ、裾は愛する男の手で捲りあげられました。わたくしは息を呑み、震える手で紙を広げ、いつものように手早く作品に取り掛かる師匠の横で、手習いのように、美しいそのお姿を紙の上に写し取ろうといたしました。




 一枚、また、一枚と新しい和紙が伸べられていく毎に、少しずつ少しずつ、奥様の着物も乱されていきます。裾を捲られ、押し倒され、脚を拡げられ・・・・。裾除けをはだけられ・・・。絶対に男の目に晒されぬはずの女陰の影がちらりと零れます。
 奥様の溜息がかすかに漏れたような気がいたしました。ふと見ると建てられた膝は、細かく震え、背けられた首筋は赤く、そして、その身体から揺れる様に立ち昇る香の香りに、部屋はだんだんと熱くしめってくるかのように思えてまいりました。





『帯を解いて、襦袢になってくれないか。』
 一旦縄を解いた後に、師匠は、低い声で着物を脱ぐように命じられました。奥様は、もう、わたくしの方を見られませんでした。もう、わたくしは無いもののように、振舞われる事だけが、救われるただひとつの方法のように・・・・。ただただ、ひたすらに夫の横顔をだけを見つめて、奥様は帯を解き始められました。





 縛り絵の行き着く先が、どのようなものなのか、ご存知でいらっしゃったでしょうに。奥様は、決して、わたくしをさげてくれと夫に訴える事はありませんでした。
 ただ、一枚、新たな紙が伸べられる度に、苦しそうに眉を顰められ、辛そうにいやいやと首を振られるのでした。
 遂に、その素肌を晒さねばならない時が来た時には、奥様はしばらくじっと耐えるように俯いておられました。師匠はただ、黙って筆を走らせて、その羞恥に苦悩する奥様の表情を写し取られておられました。





 いままで、ずっとやわらかな絹の着物に包まれておいでだった、たおやかな女性の白い身体が、するりと向き身の卵のように現れた瞬間。あたりにぱあっと、香の香りが拡がりました。まるで、その香は着物に焚き染められていたのではなく、奥様の身体の芯から沸き立っているかのようえで、わたくしはただひたすらにうっとりとその香りをきくばかりでございました。




「いや・・・・。」
「恥ずかしい。かんにんして。」
「あなた、許して。」
 その後は、奥様は黙って耐えられなかったのでございましょう。ひと縄ごとにか細い声で哀願され、涙を振り零され、打ち震えておられました。
 白昼夫の前に素肌をさらす事さえも、考えられないような時代だったのでございます。絹のお蚕の中にずーっと大事に守られていた素肌を、弟子にしか過ぎない私の前にさらすだけでも地獄の羞恥だったはず。それを、縄をかけ、身動きできない姿を紙の上に写し取られなくてはならないのでした。





 食い入るように男二人の目が奥様を見つめ、ばらばらに引き裂こうとしているのです。わずかな身体のしなり、恥ずかしく震える乳房のふくらみ、尖ってくる乳首、喘ぐ平たく白い腹、そそけたつ陰毛。何も隠すことも出来ず、ただじっと、その身を差し出さねばならないのです。
 震えながら、羞恥を必死で堪える奥様の身体がだんだんと熱く、美しい朱色に染まり、うっすらと汗に濡れていくさまを・・・・わたくしは、未熟な腕で、できうる限り、一つ残らず紙の上に写し取ろうと必死でございました。






「ああ・・・・旦那様。お許し。お許しください。」
 奥様の足へ、縄を掛けられながら師匠の手が奥様の足の間に滑り込んでいくのが見えました。歯を喰いしばり身体を捻って逃れようとしても、あっという間にその指が二本揃えられたまま差し込まれ、ゆっくりと抜き差しされました。
 師匠が何を引き出そうとしてるのか何度も経験して理解しても、他の女人の時のように、絵師の目で見る事など到底出来ない心持で、わたくしは腰を半分上げて膝立ちになり、食入る様に奥様の苦悩する様を見つめてしまいました。男としての本能が沸き立ち、ぎりぎりと歯軋りせずにはいられないほどに興奮してしまっておりました。
 とろりと濡れて光る師匠の指が行きつ戻りつする間、奥様はしっかりと目を瞑り、口を引き結んでおりました。
 その時でございます。今までしっかりと閉じられていた瞳が、急にぱっと開けられて、無いものとして黙殺していた、わたくしの瞳へ真っ向から注がれたのでございます。男として、憧れぬいたお方に、決して見せたくはなかったはずのその浅ましい欲情に血走った瞳を、奥様はじっと見つめ返されたのでございました。

 羞恥と被虐に濡れた女性の諦念の瞳で。

 わたくしが一生忘れられぬ初めての恋に絡め取られたのは、その瞬間でございました。

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    2007

04.20

御伽噺・23



さあ、白状おし、とあなたは言った
縛られてるおまえは何をされても抵抗できない
私はおまえに酷い事をいくらでもできるんだよ

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私は戸惑う なにを白状すればいいのか
何も隠している事など無い
何も打ち明けることなど無い
私のすべてはあなたのもの
私の心もあなたのもの

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いいや そうではないだろう
自分に嘘をつくんじゃないよ
隠している事があり
偽っている事がある
信じたくないことがあり
出来ない事がある

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そんなはずはない
そんな事あるわけない
だけど信じるってどういう事なのか
見たくないものを見ない事?
知りたくない事を考えない事?
ありもしないことを思い描く事・・・
私の心は全く自由にならない

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だが、おまえ
知っているだろう
今日の本当と明日の真実は違う
今日の真心と明日の誓いは違う

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そうして 彼は笑う
だから おまえをぶってあげよう
悲鳴をあげて逃げ惑うまで
血の海に這いずり回るまで
嘘をついても つかなくとも
何も考えられなくなるまで

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ああ その通り そうかもしれぬ
考えず 思い惑わず
あなたが望む事を
あなたが望むとおりに
だって あまりにも痛いから
だって あまりに耐え難いから
私が 正しい事を選びそこなったのは
あなたが私を打ち据えたからなのだから
この痛みに この苦しみに
すべての言い訳を預けよう


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    2007

04.17

学習しない私へ





ゆっくりと沈み始める感覚を捉える
身体が取り止めもなく分解し
感覚が急激に拡散する
この状態には覚えがある
まずい・・と、焦って
何かに掴まろうとして空振りした

沈み込んでいく身体
振り返ろうとする心
捕まえようとした人影
残された言葉・・・

「誰にも話してはいけないって」

解っていた筈なのに
つい失敗した
同じ所で 躓いた

「だって、淋しかったんだもの」

しかたないでしょ、もう一度
ほら・・・

そして、階段を転げ落ちた
「コレデ何トカ正気ニ戻レ」

もの憂い・・・春に


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    2007

04.15

蒲公英



あの暖かい春の日に
多摩の河原に寝ころんで
あなたが 吹いて聞かせてくれた
たんぽぽの笛
そのもの憂い甘えた音よ
・・・・ああ、春は 今日一日だけで
十分すぎるほど 美しい
口に銜えた たんぽぽの軸の
ほのかな苦みをあなたは
想いととともに噛みしめる







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    2007

04.02




 
桜の木の下で待っていると約束をした

金の瞳の獣と

私は、むっつ
白い花が一面に散った
赤い着物を着てた
鶸萌黄の帯を締めてた

桜の木は家の前に咲いている
門を出て
桜の花びらが散り敷かれた
五段の階段を降りて
たったの三歩

一尺ほどの高さの崖をぽんと飛ぶと
外灯の光の届かない
木の下闇に獣は蹲って待っていた

獣が約束どおりに
その牙を私の皮膚に立てる時
冷たい湿った布団に包丁をつき立てるように
ちょっとへこんで
逆らって
それから ようやく諦めて
ずぶずぶとそれを受け入れるのが 見えた

ぼんやりと薄墨を刷いたような
ぴんく色の光の中で

私は

獣が音を立てて
私の身体を貪り喰うのを
じっと見て いた

ぼりぼり ぴちゃぴちゃ・・・

獣の骨を咬む音と
血を啜る音を

聴 きながら

待つ 

囚われたの螺旋の中で

夜の清い空気のひんやりとした風が吹き上げる
桜の花びらを数えながら・・・

それから獣は満足げに舌なめずりをして
固くて丸い頭を 私の脛に擦りつけ

くちくなった胸を満足げに膨らましながら

また・・・
と、囁いた

また、来年、桜の木の下で









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